お知らせ
各地で起こっているA型事業所の閉鎖に伴う障害のある人の解雇問題に対して、8月9日付けで、きょうされん常任理事会は声明を発出しました。
本声明を一読いただくとともに、関係方面など周知いただきますよう、よろしくお願いいたします。
A型事業所の閉鎖に伴う障害のある人の大量解雇問題を受けて
2017年8月9日
きょうされん常任理事会
岡山県倉敷市と香川県高松市で就労継続支援A型事業所を展開していた運営法人が、経営状況の悪化を理由にこれらの事業所を閉鎖したことで、270人を超える障害のある人が解雇された。規模の大小はあるものの、こうした解雇が各地で起きている。
かねてより事業を行なわず給付費だけを受け取るような、いわゆるブラックA型事業所の問題が取り上げられる中、厚生労働省は今年4月より、事業の新規指定や継続の要件を厳しくする等の措置を講じた。そして今回の事態に当たっては、倉敷市が運営法人に対し、閉鎖までに障害のある人の受入先を見つけるよう勧告し、ハローワーク等関係機関も受入先の確保に動いている。
こうした対応は現時点では必要だが、加えて、厚生労働省としてこうしたA型事業所の閉鎖に伴う障害のある人の解雇の実態を把握すべきである。そして、今後同じような解雇をなくすためには運営法人の責任を問うだけではなく、制度上のより本質的な検討が必要だ。
2003年に始まった支援費制度以降、規制改革の一環としてNPO法人も障害関連事業に参入できるようになったことで、多くの小規模作業所が法内事業へ移行できるようになった。これにより障害のある人の働く場や活動の場が広がったことから、ここまでは必要な規制改革だったといえる。
しかし、2006年に施行された障害者自立支援法では更に規制を取り払い、株式会社等にも参入の門を開いた。これにより、営利本位の企業までもが障害関連事業を実施できるようにしたことが、今回の大量解雇の発端と見てよい。多様な主体が参入することで競争がおこりサービスの質が向上する等として進められた規制改革の結果、障害のある人から働く場を取り上げることになってしまったわけだ。従って、この行き過ぎた規制改革にメスを入れなければ、いくら指定基準等を厳しくしても、こうした事態は解消されない。
以上のことから、行き過ぎた規制改革を正常化するための視点を3点提起したい。
第一に、就労支援事業は障害のある人の働く場であると同時に、非営利性と公益性を原則とする社会福祉事業でもあることを踏まえるべきである。社会福祉事業は営利本位ではなく、公共の利益のために必要な事業である以上、営利を目的とする企業等のこの分野への参入の在り方は、上記の原則に照らして見直しが必要である。
第二に、就労支援事業所への給付費の原資は税であることを踏まえるべきである。社会福祉事業は企業の経済活動に係る資金や利益とはまったく異なる性質の資金により実施されるのだから、それによって生じた利益を株主に配当することを禁じる等の措置を講じる必要がある。
第三に、障害のある人の人権の観点から、この問題の解決にとりくむべきである。障害者権利条約の批准から3年半、障害者雇用促進法の差別禁止条項等の施行から1年余となるが、今回の解雇問題は明らかに障害ゆえの不利益といえる。これを機に、障害のない人との平等を基礎とした雇用を確保するための本格的な措置を講じるべきである。
声明「A型事業所の閉鎖に伴う障害のある人の大量解雇問題を受けて」(ルビあり).pdf (0.7MB)
声明「A型事業所の閉鎖に伴う障害のある人の大量解雇問題を受けて」(ルビなし).pdf (0.13MB)
5月26日(金)午前、参議院本会議において介護保険法改正を含む地域包括ケアシステム推進強化法案が可決となり法案は成立をしました。
障害分野への影響などについてはほとんど審議に取り上げられず、議論を尽くしたとはとても言えない状態ですが、与党などの賛成多数で成立しました。
今法案の成立にあたり、きょうされんは抗議声明を発表しました。
地域包括ケアシステム強化法案成立抗議声明2017.05.26.pdf (0.3MB)
(きょうされんHPより)
きょうされんは、4月12日の衆議院厚生労働委員会で「地域包括ケアシステム強化法案」審議の途中で強行採決されたことに対する抗議声明を発表しました。
地域包括ケアシステム強化法案衆議院厚生労働委員会での可決強行への抗議.pdf (0.12MB)
精神保健福祉法改正案に反対する意見
2017年4月10日 きょうされん
政府は2017年2月28日、「相模原市の障害者支援施設での殺傷事件の再発防止」を改正趣旨に掲げた「精神保健福祉法改正案」(以下、改正案)を閣議決定し、国会上程しました。改正案には、措置入院患者の退院後の支援体制や精神障害者支援地域協議会の設置が謳われています。
きょうされんは、厚生労働省内に設置された「相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止検討チーム」において、再発防止策として措置入院制度の見直しが進められていくことや、社会防衛策の強化につながることを強く懸念していました。
残念ながら、改正案は精神障害のある人への権利擁護を進めるのではなく、時計の針を逆戻りさせるような社会防衛的な方向にあることを指摘し、以下に意見を述べたいと思います。
1.前提の変わった改正案は撤回すべき
改正案が閣議決定される4日前、2月24日に横浜地方検察庁は精神鑑定などを踏まえ、容疑者を「完全責任能力がある者」として起訴しました。被疑者は「自己愛性パーソナリティー障害」と鑑定されており、必ずしも措置入院が必要とは言えません。
しかし、改正案についての議論は、被疑者が「措置入院の必要な者」であることを前提にしています。前提が変わったのであれば、当然ながら改正案は撤回すべきです。
2.社会防衛的な方向性への危惧
誤った前提にもとづく「改正」は様々な問題や矛盾をもたらす可能性があります。例えば、改正案に示されている精神障害者支援地域協議会もその一つです。同協議会については、警察官の参加が明記される一方で、個別ケース検討会議への本人や家族の参加は「必要に応じて」とされ、当事者の立場が軽視されています。さらに退院後も医療の管理下に置かれることが危惧され、精神障害のある人への偏見や社会防衛的な政策の増長につながります。
3.精神科医療の改革こそが求められる
厚生労働省は、精神科医療において隔離や身体拘束が増えていることを発表しました。病気の治療のために入院したはずが、施錠された部屋で過ごしたり、ベッドにくくり付けられることで、患者自身にどのような影響を与えるのか、はかり知れません。こうした状況を引き起こしてしまう大きな要因に、他の診療科と比べて医師も看護師も少なくてよいとする、いわゆる「精神科特例」の問題があります。
また、昨今示されている「重度かつ慢性」の基準も問題です。「重度かつ慢性」とされた人は地域移行の対象からはずされ、地域生活の機会が奪われます。この「重度かつ慢性」の基準を廃止し、地域生活を実現していくという方向性に切り替えるべきです。
今の日本に求められていることは、措置入院制度の見直しではなく、精神科医療の抜本的な改革、すなわち社会的入院の解消や、精神障害のある人への権利擁護の仕組みづくり等です。
今般の改正案には、こうした抜本改革の視点は全くありません。それどころか、少しずつ動き出した「病院から地域へ」という流れに冷や水を浴びせる以外の何物でもなく、廃案とすべきです。