お知らせ
【声明】刑は確定しても事件は解決していない
「やまゆり園」事件判決確定について
きょうされん常任理事会
昨日、2016年7月26日に起きた「やまゆり園」事件の犯人・植松聖 (30)の死刑が確定した。去る3月16日の横浜地裁での判決に対し、植松本人が「控訴をしない」と事前に予告した通り、被告側は上訴権を行使しなかった、つまり判決内容を受け入れたのである。
しかし、何よりもわが国の史上最悪とも言えるこの残虐な事件が、障害者施設という現場で起きたことや、発生から今日まで、犠牲となった19名の障害のある入所者をはじめ、45名の死傷者のほとんどが匿名とされたことを想うとき、この判決の確定によって事件をすべて終わりにしてはならない。
刑が確定しても、ひとりの青年を、障害のある多くの尊いいのちを奪うほどに凶悪な罪人にしてしまった根本的な原因や本質的な背景が明らかにされたとは思えない。わけても、事件と社会との関係、すなわち生産性至上の社会の風潮が植松の言動にどう影響したのかはまったく触れられなかった。また、判決文には、「犯行動機の中核である被告人の重度障害者に関する考えは、被告人自身の本件施設での勤務経験を基礎とし」とあり、その前提となる職員による利用者への虐待事例等を指摘している。しかし、裁判でこのことが深められることはなかった。犯人である被告個人のみを裁くだけでは、再び同様な事件がくり返され、第2・第3の「やまゆり園事件」が引き起こされることが大いに危惧される。
また、この事件を巡っては、植松に大麻精神病による措置入院という経歴があること等から、刑事責任能力の有無が争点とされた。さらに、2017年2月には措置入院制度の見直しに関る精神保健福祉法改定案が上程されたが、本事件をきっかけとした治安目的とした改定案であったことから多くの当事者をはじめ世論の反対により廃案となった。
被告が「障害者は不幸しか生まないから安楽死させるべき」とする犯行理由は、障害のある人に対する人権侵害と差別の根底に流れる優生思想の根強さをあらためて浮き彫りにしたといってよい。そういう意味で、この事件は、社会における障害のある人に対する偏見と差別・虐待、そして施策の立ち遅れの実態を、植松聖という一青年の姿を通して体現した「氷山の一角」に過ぎない。
わたしたちきょうされんは、二度と同様な事件を再発させないために、この判決確定を端緒として、引き続きこの事件の本質解明に向けての深い分析・研究・学習・討議を内外に呼びかけるものである。
2020年3月31日
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